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【ポケットエコーが描く在宅医療の未来】 ナースマガジン×GEヘルスケア・ジャパン

第2回:訪問看護だからこそ活用できるポケットエコー

第1回では「デジタル田園健康特区」である長野県茅野市の訪問看護ステーションにおけるポケットエコー活用の実証調査の取り組みをご紹介しました。今回は、本調査研究の連携地域である和歌山県の、のかみ訪問看護ステーションの神谷千珠代看護師に、訪問現場で実際使用しているポケットエコー、GEヘルスケア社のVscan Air導入に至った経緯とそのメリットについてお話を伺いました。

医師直伝 恐る恐るポケットエコーに触れる

神谷千珠代看護師
のかみ訪問看護ステーション 主任
神谷千珠代 看護師
 私たちがポケットエコーを訪問現場で活用するようになったのは、2021年に当地域の医療の要である紀美野町立国保国吉・長谷毛原診療所の多田明良先生(和歌山県の地域医療において、医師と訪問看護師の連携によるポケットエコー普及を目指し活動)から「エコーのセミナーをやるから参加してみないか」、とお誘いを受けたのがきっかけでした。その時は5・6カ所の訪問看護ステーションが集まり、ZOOMを使ったオンラインセミナーおよび意見交換を行いました。

 セミナーを受けるまでは、「エコーは先生(医師)が触るもの、私たちがエコーを触るなんて恐ろしい!」という印象しかなかったのですが、セミナーに参加して、「そこまで高度な技術を求められているのではないんだな」「プローブを当てるくらいなら、私たちにもできるのでは?」という率直な感想をもちました。
 その数カ月後、多田先生が訪問看護ステーションまで出向いてくださり、膀胱と肺のエコー造影モデルを使ってプローブの当て方や読影を学びました。

 膀胱は一番見やすい印象でしたが人によって形が違うので、これが膀胱なのかと分かるまでには少しコツをつかむ必要がありました。

 当ステーションの利用者さんは、基礎疾患として肺疾患を抱えていたり、その他の疾患でも入退院を繰り返す方が多いです。訪問先で肺のBラインが見えたときは画像の評価を多田先生に相談したこともあります。しかし、読影の都度相談をしてリアルタイムでお返事をいただくことは時に難しく、画像を撮りためておいて後日先生とエコー画像を共有、読影する機会をもつようにしていました。

 当ステーションでは、管理者も含めほぼすべてのスタッフがエコーセミナーを修了しました。これを受けることによって、看護師がエコーを使用することへの理解が得られたのではないかと思います。

 膀胱に比べ、便の評価はまだまだ難しく、腸の画像を読み解くことには現在も難渋しています。


訪問看護にこそポケットエコーは有用

 現在、当ステーションでは3台のポケットエコーを活用しています。うち2台はワイヤレスではないタイプのため訪問先でもラインを繋がなければならず、場合によっては操作がしにくいこともあります。一方、本体が小さくワイヤレスタイプのVscanAir(写真矢印)は、使いやすい上にスマホに映る画像も鮮明で膀胱などもくっきり見えます。読影に慣れていない初心者にこそ、画像の鮮明さが求められると感じています。
 

実際にポケットエコーを訪問看護に導入するようになって、印象に残った症例を紹介します。

患者プロフィール

70歳代 男性 内向的な性格 訪問看護に拒否的な態度

既往:
腸腰筋肉腫
腫瘍が膀胱を圧迫し排尿障害あり
主治医より1日4回の導尿指示

経過:
エコー使用前
・腫瘍が膀胱を圧迫、カテーテル挿入困難
・カテーテル挿入時や導尿処置時に痛みや出血を伴うことあり

エコー使用後(判明したこと)
・尿道と膀胱の位置のずれを可視化⇒カテーテル挿入困難の原因
・排尿後の残尿は50mL程度
主治医に膀胱の状態や在宅での排尿状態を正確に報告

結果:
1日4回の導尿を止め経過観察

現状:
月に1回程度エコーでの膀胱評価を実施、排尿障害の有無を可視化して評価


 本症例を経験したことで、エコーで膀胱の状態を正確に可視化でき評価につなげられたこと、そして何よりも痛みの伴う処置を行う必要がなくなり、利用者さんの苦痛を減らすことができたことを実感しています。

 もしエコーを使えていなかったら「患者さんが痛がって導尿させてくれない」という報告になっていたものが、エコーを使うことで「膀胱の変形がかなり進んで尿道と膀胱のずれがあること、排尿障害はあまり進んでいないために残尿は少なく、腎機能障害を懸念しなくてもよい状況であること」を客観的な情報として主治医に報告することができました。
苦痛なくアセスメントできるエコーは、利用者にも看護師にもメリットがある
 訪問看護にポケットエコーを導入することが、医師への正確な報告や看護師の行う最適なケアに繋がるだけでなく、そのことが利用者さんの生活までも左右するということを改めて学ぶことができました。今後は、ひとり暮らしの方をはじめ、認知症状のある利用者さんの排尿評価に活用していくと有効なのではないかと思っています。認知症といってもその方によって認知能力も様々です。ご本人の意思を確認できなかったり「トイレに行きたくない」と言われても、今までは時間だから、といってトイレ誘導していました。それがエコーを使って膀胱評価を行えば、本当に残尿がないことも可視化できます。エコー自体は痛みを伴わないので利用者さんも協力してくれます。こうして主観的な利用者さん本人の自覚症状をエコーを使って客観的な情報として主治医に伝えられたことで、治療方針まで変わったわけです。ポケットエコーの利用により、利用者さんと私たち、医師と私たちの信頼関係を築くことができました。それは利用者さん・ご家族に大きな安心感をもたらしたとともに、私たちにとっても利用者さんの安心を感じながら訪問看護を継続していける喜びにつながっています。

ポケットエコーがもたらすメリットに期待

 「エコーは医師や認定看護師さんが使うもの」、という認識はまだまだ現場では多くあると思いますが、限られた訪問時間の中で症状のアセスメントやケアを行って利用者や家族の暮らしに伴走している訪問看護師は、緊急時にはすぐに医師に正確な情報を共有し連携しなければならない、という点でも病院の看護師とはまた違った役割を担っていると思います。

 ポケットエコーは、一般の看護師が自ら日常的なケアに使うことに加え、対応困難な事例をスペシャリストに相談するツールとしても、これからの訪問看護には欠かせないアイテムになっていくことを期待しています。
(2023年3月3日オンライン取材)
本文写真提供 :のかみ訪問看護ステーショ ン
本文写真提供:
のかみ訪問看護ステーショ ン
※次回は、多田明良先生のインタビューを紹介します。ご期待ください!
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