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ナースマガジン vol.43

【看護ケアQ&A】嚥下とポジショニング

投稿日:2023.05.01

誤嚥や窒息を予防し、美味しく口から食べるために、食事摂取の支援は重要です。しかし、食事時の適切なポジショニングについては、悩みながら実践する看護師も多いと思います。今回、読者の皆様から寄せられたお悩みについて、芳村先生にお答えいただきました。
監修
芳村 直美 先生
特定医療法人研精会 稲城台病院
食支援プロジェクト推進本部長 食支援センター部長

嚥下と姿勢 ・リクライニング位角度の関係について

食事時にはほぼ全員がベッドの角度を90度にしており、個別の対応ができていません。嚥下には姿勢(ポジショニング)が重要な点、また嚥下とリクライニング角度の関係についても改めてお伺いしたいです。
—-急性期病院スタッフ
良い姿勢は良い嚥下を作り出し、看護の3原則である「安全」「安楽」「自立」を充足します。むせや誤嚥がなく安全に食事でき、姿勢が崩れずに長く安楽に座っていられることが大切です。自立した食事行動を取ることができれば、認知機能が高められセルフケアが拡大していきます。臨床では誤嚥があると、すぐに食事形態を変更しがちです。しかし、まずは食支援の土台となるポジショニングを見直すことが重要です。
 嚥下にはリクライニング角度も大きく影響します。座位に近づくほど食べ物を送り込む力や飲み込む力が必要になるため、嚥下障害がある患者は座位よりもリクライニング位のほうが安全に摂取できる場合が多いです(図1)。30度は、食べ物が重力により口腔から咽頭に送り込まれやすくなる最低角度です。食べ物が咽頭をゆっくり通過するため、気管に入りにくいメリットもあります。30度以下では食べ物が口腔や咽頭に残留しやすくなるため、嚥下障害や著しい筋力低下がある場合、30度から徐々にリくライニングを起こしながら食事形態をアップしていきましょう。

 ただし、90度まで起こすことが悪いわけではありません。リクライニング角度を下げすぎてしまうと、セルフケアを妨げてしまいます。自力摂取できるのであれば60度以上にしましょう。嚥下機能、とセルフケア能力を判断し、その患者に合った安全安楽のポジショニングが大切です。
【図1】嚥下障害がある人の摂取角度と食事形態の関係


嚥下の評価

嚥下評価が言語聴覚士にのみ集中し、必要な時に評価が行えていません。嚥下評価する職種や方法、連携などを教えてください。
—-総合病院摂食・嚥下障害看護認定看護師
当院では嚥下評価と食事開始基準をルール化し、徹底しています。基本的に、入院時にスクリーニング評価を行います。初回の評価を行うのは、「食支援センター」という専門部署で勤務する看護師や言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士などです。評価基準に沿って嚥下評価し、その点数をもとに、主治医に食事形態を提案しています。
 評価方法は、水飲みテスト(MWST)とゼリーを使ったフードテスト(FT)です。リクライニング位30度からはじめ、問題なく嚥下できれば徐々に角度をあげていきます。患者の食べる動作も観察し、両手が使えるか、口に食べ物を持っていく動作ができるかなど、セルフケアまで評価します。

 評価後はフローチャートに従い、評価点数に応じた形態での食事開始を検討します。(図2)。絶食期間が1週間以上、誤嚥性肺炎の発症後、痰が多く吸引が必要など、誤嚥のリスクが高い場合には形態をワンランク下げた食事を選びます。リスクを見極め、安全な範囲を決めながらアプローチ方法を考えていくことが大切です。

 ただし、嚥下評価では食事の一場面しか評価できません。実際の食事で、むせがないか、一口量が適量か、ポジショニングに問題がないかなどを、病棟の看護師と連携して評価します。嚥下評価は言語聴覚士が行うことが多いかもしれませんが、看護師もできたほうがいいと思います。言語聴覚士は人数が少ないため、初回評価ができても、その後もフォローアップし続けるのが難しいためです。看護師が評価しても点数自体は変わりませんが、疾患だけでなく生活なども見据えながら行うことに、看護師が評価する大きな意味があると思います。看護師がリスクや安全条件などの範囲を見極めながら、評価できるといいでしょう。

 そのために、当院では多くの症例を重ねながら、嚥下評価と食事開始基準のルールを作ってきました。どの病院でもルールを作ることは大切だと思います。そのときには、当院のルールを一つの参考としてしていただければと思います。
【図2】嚥下評価に応じた食事開始基準


ポジショニング法の悩みについて

円背の患者さんのポジショニングがうまくいきません。どんどん前屈していってしまい、自力摂取が困難になっています。
—-介護施設スタッフ
まずは基本姿勢を見直してみましょう。体幹にゆがみがないか、足底が接地しているかなどを確認したうえで、円背があるとどんな問題が出るのか見極めることが大切です。
 背中の湾曲に対しポジショニング法の悩みについて、ベッドの角度や車いすの大きさが合わず、ベッドの足側にずり下がっていたり、車いすで左右に傾いていたりするケースが多く見られます。ポジショニングのポイントは、空間をしっかり埋めることです。円背があると、背もたれ部分との接地面積が小さく、不安定になりがちです。頸部・胸部の筋緊張から、飲み込みにくさや呼吸の抑制も生じやすくなります。頭頸部から背中の湾曲あたりに大きなクッションや掛け布団などを当て、広い面で身体をサポートして安定させましょう。大腿や下腿の隙間を埋めること、足底全体を接地させることで、安定性が向上します。

 リクライニング角度は、ベッド上90度は窮屈なのでおすすめしません。逆に30度に下げると、背中が邪魔をして顎が上がる姿勢になってしまいます。ベッド自体の角度を見るのではなく、頸部の角度が顎から胸骨まで握りこぶし1個分になるように調整しましょう。
【図3】円背患者のポジショニングケアの良い例(ベッド上)



参考
1.迫田綾子 北出貴則 竹市美加 (編): 誤嚥予防,食事のためのポジショニング POTTプログラム[Web動画付き].医学,2023
2.一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021(PDF)
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf


監修の芳村先生は「食支援推進プロジェクト(通称:食プロ)」として、高齢者や障がい者が安心して口から食べる喜びを包括的に支援するプロジェクトを進められています。

特定医療法人研精会 稲城台病院 食支援プロジェクト
https://inagidai-hp.com/mealsupport-2/

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