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ナースマガジン vol.44

【看護ケアQ&A】「生きる」を支える がん看護

がん治療を受ける患者の暮らしを支えるため、看護師の関わりはとても重要です。しかし、多様化・複雑化する患者背景に、悩みながら関わることが多いのではないでしょうか。今回は、アンケートで寄せられたお悩みについて、浅場香先生にご回答いただきました。
監修
浅場 香 先生
修文大学 看護学部 地域・在宅看護学領域 准教授
がん看護専門看護師 がん化学療法看護認定看護師
※アンケートは2023年5月、ナースの星メールマガジンよりオンラインで実施。有効回答数は169名。


外来患者さんのセルフケア支援

外来で放射線治療を受ける患者さんに、副作用の対応としてセルフケアを指導しています。しかし、説明を繰り返しても、自宅ではなかなか指導通りに実施できず、家族の協力も得られないこともあります。どのような対策を考えればよいのでしょうか。
—-がん拠点病院 外来・放射線 主任看護師
まずは患者さん自身が必要性を理解し、納得したうえで実施できることが大切です。治療や副作用による生活の変化や困りごとを確認し、できることを一緒に考えていくプロセスを重視しましょう。
 外来で治療するということは、治療に専念できる入院中とは違い、暮らしの中で治療を受けることになります。日々の暮らしの中では治療やケアよりも優先度の高い物事があるため、指導されたケアの実施に至らない可能性があります。日々の生活の習慣を変えていく大変さに着目した情報提供が重要です。

 放射線治療の皮膚障害においては、患者さんは「皮膚がただれていなければ大丈夫」と思い、予防的なスキンケアよりも日常の大事なことが優先される場合があります。指導する際にはケアの必要性とともに、ケアをしないリスクも提示しながら、ご本人がケアを実施する意義を理解し、日々の行動を変えてみようと思えるように支援する必要があります。治療や副作用による生活の変化、困りごとの程度は、その患者さんの暮らしの中で決まります。医療者の認識とは異なることを理解しておきましょう。

 医療者は、ご家族の協力を前提にしがちですが、家族にも日々の暮らしがあります。本人と家族の関係性も影響するため、どの程度の協力を求めるのが最適かを考えることが重要です。状況に応じて一時的に訪問看護を利用する方法もあります。暮らしぶりからニーズを把握し、最適なケアを提供できるようにアセスメントしていきましょう。


がん治療と費用

抗がん剤治療は、レジメンによっては高額な薬剤を使用し、毎月の治療費負担が大きくなることがあります。高額医療費制度を利用しても家計への影響が強いと、必要なサービスがあっても導入に迷われるケースがあり、悩んでいます。
—-急性期病院 在宅療養支援室 主任看護師
患者さんがお金のことで困っている場合、MSW(メディカルソーシャルワーカー)の介入が必要です。また、そのサービスが本人にとって本当に必要であるか、あらためて考えることも大切です。
 お金に対する価値観は様々で、一人ひとり異なります。また、家族のライフサイクルの影響も受けます。高齢の方の中にはご自身よりも家族の生活を優先し、あえて治療をやめる方もいます。子育て世代でも、治療よりも子供のためにお金を使いたいというケースもあります。ただし日本は医療に関する社会保障制度が手厚く、お金がないから治療が受けられない国ではありません。お金の話は直接治療や看護を受ける相手には相談しにくいものです。切な医療が受けられるように、MSWに相談できるようにしましょう。例えば、治療のために仕事を休む状況があれば、MSWと顔合わせだけでも進めることがあります。気軽にMSWに相談できるような相談支援体制づくりが大切です。

 医療者は見通しを持てるからこそ先に考えてしまい、患者や家族が、今現在体験していることとの間にズレが生じる状況になる場合があります。例えば、積極的治療が終了したからといってすぐに在宅医や訪問看護が必要になるわけではありません。状況によっては訪問看護ではなく外来看護による支援で対応できるかもしれません。本人や家族の気持ちや暮らしぶりから、最適な医療資源をコーディネートできるようにアセスメントしていきましょう。
※レジメンとは
薬物療法を行ううえで、薬剤の用量や用法、治療期間を明記した治療計画のこと。


補完代替療法を望む患者との関わり方

外来に通うがん患者さんが、標準治療をしながら補完代替療法を受けています。治療への影響や、体力の消耗などが心配ですが、看護師としてどう関わればよいか悩んでいます。
—-訪問看護ステーション 主任看護師
このような場合、看護師は患者さんのよき理解者でいることが大切です。まずは「患者さんが補完代替療法を望んでいる」ことを看護師認識し、心情を汲んだ関わりを心がけましょう。
 補完代替療法を受けている患者さんは、病気に対し、ご自身でできることに全力に取り組んでいます。自分なりに頑張って病気と折り合いをつける努力を認め、肯定的なフィードバックをするなど、その想いを理解し支えることが大切です。「うまく病気に対処できている」という思いや「医療者が自分の想いを理解してくれている」と実感できる関わりは、患者のストレス対処力を高め、QOLを支えることにつながります。

 ただし、患者さんの中には主治医から勧められる標準治療を「標準治療=スタンダード」と誤解して、 「スタンダードよりももっと良い治療を受けたい」という思いで補完代替療法を受けている場合があります。補完代替療法の良し悪しではなく、病院で受けている治療と効果を打ち消しあわないよう、科学的な確認は欠かせません。主治医から勧められている「標準治療」が今、ご本人にとって最善の治療であり、補完代替療法は、患者さんに身体的にも金銭的にも害がないことが前提であると、患者さんにわかりやすく伝えるのは看護師ができる役割です。

 看護師としてどこまで説明するか主治医と確認した上で、患者さんが「最善の治療を受けている」と自信を持って日々の生活を楽しめるように支援することが求められています。

補完代替療法

補完代替療法とは、通常、がん治療の目的で行われている医療(手術や薬物療法〔抗がん剤治療〕、放射線治療など)を補ったり、その代わりに行う医療のことです。健康食品やサプリメントがよく注目されますが、鍼・灸、マッサージ療法、運動療法、心理療法と心身療法なども含まれます。

引用:がん情報サービス がんになったら手に取るガイド 普及新版補完代替療法を考える
https://ganjoho.jp/public/qa_links/book/public/pdf/37_175-177.pdf
(2023年6月現在)

標準治療

標準治療とは、科学的根拠(エビデンス:あるテーマに関する試験や調査などの研究結果から導かれた、科学的な裏付け)に基づいた観点で、現在利用できる「最良の治療」であることが示され、多くの患者に行われることが推奨される治療のことをいいます。

引用:がん情報サービス 標準治療とガイドライン
https://ganjoho.jp/public/knowledge/guideline/index.html
(2023年6月現在)

新しいケアの概念サポーティブケア

 近年、がん治療におけるサポーティブケアが注目されています。これは、がん患者の症状や治療の苦痛を緩和し、病気との向き合い方をサポートするものです。病気が判明してからすべてのステージが対象で、副作用や疼痛管理、リハビリ、心のケア、社会復帰支援など、包括的なケアが必要とされています。2015年に設立された日本がんサポーティブケア学会では、がん治療の質の向上を目指し、さまざまな研究活動を推進しています。

参考:一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会 http://jascc.jp/
(2023年6月現在)


参考: 厚生労働省eJIM「統合医療」とは?
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/about/index.html


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