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ナースマガジン vol.45

聴きある記:第5回 日本在宅医療連合学会大会

今回は、看護師ジャーナリスト高山 真由子氏が聴講した2講演の要旨をご紹介します。

会 期:2023年6月24日(土)~25日(日)

会 場:朱鷺メッセ(オンデマンド配信あり)

大会長:中島 孝(独立行政法人国立病院機構新潟病院院長)

テーマ:今ここに求められる在宅医療の創造
     ―緩和・難病そして薬・機器・人の融合

シンポジウム28 日本在宅薬学会合同企画

在宅医療での薬剤師の貢献

在宅現場で感じる薬剤師目線での課題点〜あるある〜

中西美耶子氏
(合同会社クオ・ライフ・ナカヤリョウセイ堂薬局)
 在宅医療の分野で活躍する薬剤師が増えてきているが、マンパワーが少ない背景や地域特性等から、 薬剤師の在宅医療へのシフトが十分に進んでいない地域もある。 その1つである富士河口湖町で薬局を運営している中西氏は、在宅薬剤師の視点から3点の問題をあげ、現状と課題について述べた。

薬剤師の覚悟の問題

 人の家の敷居をまたげないという地域特性から、薬を自宅に届けるだけのいわゆる 「お届け在宅」 になっている現状があり、多職種からの期待に応えているとは言えない。 薬剤師が薬局の中から地域に出た意味と、在宅医療において薬剤師に求められていることは何かを考え、覚悟を持つことがきっかけになり、患者さんの自宅に入っていくことができた。 また、時には患者さんの急変にも遭遇することから、自分が何をしなければいけないのかを考え冷静に行動する準備と覚悟も重要だ。

薬剤師の知識・スキルの問題

 在宅医療が進んでいないことから医療制度や介護保険の仕組みを理解できていない薬剤師は多くいる。 また、 多職種との連携がとれておらず、患者さんの病態等の情報共有が不足し、処方箋だけでは薬剤説明が十分できているとは言えない。薬局の窓口だと副作用の説明に偏りがちだが、在宅では生活背景をふまえた説明が必要でそれにはスキルが必要だ。 また、訪問時にバイタルサインを測る薬剤師はこの地域では少数派。 処方された薬剤の評価をしたり、体調確認をするためにもとても重要と考えている。

薬剤師と多職種の壁

 この地域で働く中で、薬剤師も生と薬を扱うプロフェッショナルであるという意識と覚悟が大事だと感じる。 たとえ薬が一 つでも医師や看護師と情報共有しフットワーク軽く対応することで関係性も築いていけるのではないか。

 チーム医療において薬剤師はどう動いていくべきなのかを日々考えている。 私たち薬剤師は在宅の現場で多職種とチームを組んで 一人の患者さんをハッピーにるために、その専門性を生かしていくことがとても重要だと考えている。 薬剤師としての覚悟・知識・技能を鍛錬して多職種と連携や情報共有を進めていきたい。

高山氏の聴講後コメント

 在宅医療が浸透していない地域でその役割を切り開こうとする姿が印象的でしたが、果たして私たち看護師は薬剤師の仕事をどれだけ理解し連携しているでしょうか。薬剤師が持つ知識とスキルを看護師も把握し協働することで、薬剤師はチーム医療の一員として専門性を発揮でき、患者さんのケア向上につながることが期待できます。中西さんの取り組みを経て、この地域の在宅医療がどのように変化するのか楽しみに待ちたいと思います。


シンポジウム38 倫理・利益相反委員会企画

「在宅医療・介護現場における患者あるいは患者家族からの暴力・ハラスメント」について考える

「在宅医療・介護現場における暴力・ハラスメントに関するワーキンググループ」 活動報告 :アンケート調査結果から

三浦 靖彦(岩手保健医療大学)
 埼玉や大阪のクリニックで医療者が命を落とすという事件が起こり、多くの医療介護従事者が不安を抱えている。ガイドラインが普及していない中、在宅医療・介護分野全体での対策が必要だと考えた三浦氏は、外部識者が入ったワーキンググループを立ち上げアンケート調査を実施し、その報告をした。

 暴力・ハラスメントの中で、特に性的ハラスメントにおいて看護師に比較し、医師の方が、特に男性医師がその被害に遭う頻度が低いということが明らかになった。これはその根本に性差別、それから職種に対するヒエラルキーへの意識などがあるのではないかと推察された。

 また、訪問看護の分野で積極的に発信されたマニュアル等の成果物が活用されていないことも明らかになった。これは各職種内での教育普及方法に問題があったのではないかと考えられた。事件が連続した後でも、研修開催の動きがないのは何をしたらよいかが分かっていない可能性が推察された。

 今すぐできる防止策の一つとして、訪問看護・介護従事者がもしハラスメントに遭うような危険性を感じ取った場合は、男性医師から彼らを守るような問いかけをすることが有効と考えられる。看護分野で作成されたマニュアル等成果物が十分に活用されていない現状を受けて、各職種内で有効に利用されるための法略を考える必要があり、ワーキンググループでも今後研修会などの開催を計画していくと話した。

高山氏の聴講後コメント

 在宅医療・介護現場で起こる患者・利用者への暴力・ハラスメントについては報道等でも多く目にするところですが、逆については表面化しないまま時間が経過しています。本調査を受けて、今後具体的な対応方法や研修等が実施され、在宅医療・介護が医療・介護従事者の犠牲の上になりたつものではなく、安心・安全に働ける場として環境整備が進むことが急がれます。

執筆:高山 真由子

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