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ナースの星×龍角散

看護師に求められる薬剤管理
~とろみ調整食品・服薬補助ゼリー使用の影響と薬剤の粉砕と分割~

投稿日:2024.02.05

 超高齢社会を迎え、病院や在宅医療の現場で高齢者や嚥下困難がある患者さんへの服薬補助が問題となっています。一般に内服薬は水やぬるま湯で服用されることが多いですが、嚥下機能が低下した高齢者にとっては、これが誤嚥や肺炎のリスクとなります。嚥下の問題は、食事摂取だけでなく、薬剤の服用にも深刻な影響を及ぼしており、解決策の一つとしてとろみ調整食品や服薬補助ゼリーの活用があります。これらの補助剤は、服用の容易さと薬効の確実性を向上させる新しい手法として期待されています。

 この背景を踏まえ、国際医療福祉大学三田病院薬剤部長の富田隆先生に、適切な服薬補助製品の使用方法や有用性、および看護師による薬物管理のポイントについて話を伺いました。
富田 隆先生
国際医療福祉大学 薬学部 教授
国際医療福祉大学 三田病院 
薬剤部長  薬剤師
富田 隆 先生

-薬剤管理における看護師の役割について教えてください。

 多くの病院や施設では、看護師さんが配薬を行っています。薬剤管理におけるインシデントのリスクを減らすためには薬剤師の介入が必要ですが、病院では薬剤師の人数が限られていますので、配薬にまで関われないことは少なくありません。そこで注意していただきたいのは、「薬は、飲んで喉を通れば必ず効くわけではない」ということです。

 たとえば高齢者の場合、加齢に伴う胃酸分泌の減少によって、錠剤が体内でうまく溶けず薬効が十分に発揮されないことがあります。あるいは嚥下困難のある患者さんに対し、食事に薬剤を混ぜて服用させることがあります。しかし、薬によって味が変わり、食欲低下があったり食事を途中でやめてしまったり、薬を全て服用できないこともあります。

 さらに、口腔内で溶けて水なしで飲めるOD錠(口腔内崩壊錠)は高齢者に適している剤形といわれますが、口腔内の乾燥がある場合や唾液を飲み込むことが困難な場合には、錠剤が口腔内に残り、口内炎や潰瘍の原因になることがあります。また、錠剤やカプセルのサイズが大きいと飲みにくいと思われがちですが、小さすぎるものは義歯や口腔粘膜の間に入り込んだり、咽頭に残ってしまったりすることがあります。このように薬剤管理では、一人ひとりの患者さんの状態に合わせて、適切な剤形や服用方法を考えることが重要です。

-近年、嚥下困難がある患者さんに対し、とろみ調整食品を用いて服薬する機会が増えているようですが、この方法において注意すべき点は何でしょうか?

 とろみ調整食品を使っての服薬では、とくにOD錠に関して崩壊時間や溶出率に大きな影響を及ぼすことが分かりました。こうしたケースでは薬効が発現しにくくなり、せっかく飲んでいただいても薬物治療の成績が十分に望めません。たとえば下剤として用いられる酸化マグネシウム錠をとろみ調整食品で服薬したところ、錠剤がコーティングされてしまい、体内で未崩壊のまま便と共に排泄されたという報告もあります。

 とろみ調整食品を使わなければならない時には、可能な限り低濃度に調製してください。ただし、あまりに低濃度では誤嚥の可能性が高まりますので、その患者さんに適した濃度で薬剤を投与することが重要です。加えて、とろみ調整食品と錠剤が接している時間は、長ければ長いほど錠剤が壊れにくくなります。そこで、とろみ調整食品と錠剤が接する時間を、可能な限り短くすることもポイントです(図1)。

図1 とろみ調整食品で錠剤を服薬するための3つのポイント


-とろみ調整食品に代わる嚥下補助剤として、服薬補助ゼリーのメリットを教えてください。

 私たちはとろみ調整食品と服薬補助ゼリー(らくらく服薬ゼリー:(株)龍角散)の、錠剤の崩壊性に及ぼす影響について比較検証しました。その結果、とろみ調整食品では錠剤の崩壊時間がかなり延長されるのに対し、服薬補助ゼリーは崩壊時間に影響しないことが分かりました。つまり服薬補助剤としては、とろみ調整食品よりも服薬補助ゼリーの方が、より有用性が高いと推察できるのです¹⁾。

 また心疾患や腎疾患のある患者さんには、水分制限が必要な方々が多くみられます。薬剤を飲むときには水で飲むことがほとんどでしょう。一般的に錠剤1錠に対してはコップ1杯(150mL)の水もしくはぬるま湯で飲むようにいわれます。これにより患者さんは、服薬ごとに150 mLの水を飲むことでその分、食事などでの水分摂取量を減らさなければならず、これがQOLの低下にもつながります。

そこで服薬補助ゼリーの使用により、水で薬剤を飲む必要がなくなりますので、その分の水分を食事などで摂ることができます。これは患者さんにとって、大きなメリットだといえるでしょう。

-臨床では簡易懸濁法による薬剤投与も行われますが、これに対する注意点などありますか?

 胃酸の分泌を抑制する薬剤としてよく使われるものに、プロトンポンプ阻害剤があります。これについては錠剤として、腸で吸収されるよう胃の中で崩壊せず通過する仕掛けが施されています。ですからこれを粉砕して投与してしまうと、胃酸に触れてしまい十分な効果を発揮することができません。同様なケースは他の薬剤でも起こり得るので、簡易懸濁法を行う場合には薬剤師に確認をしていただくか、専門のデータベースで確認をしてください。

 服薬において剤形を変えることは、服薬アドヒアランスを適切にするために有用な方法のひとつです(図2)。これは薬剤師が得意な領域であり、患者さんにより最適な剤形を選ぶことができますので、ぜひ相談していただければと思います。
図2 近年の治療に対する基本的考え方-アドヒアランスの向上-


-薬剤の粉砕や分割に関しての誤解や問題点について教えてください。

 薬剤の粉砕や分割についての誤解と問題点は、多くの人が錠剤をそのまま服用することが原則であることを理解していない点にあります。実際、錠剤には糖衣錠、コーティング錠、腸溶剤、徐放性製剤といった特殊な製剤加工が施されている錠剤があり、特定の条件下でのみ効果を発揮するように設計されています(図3)。これらの加工は、薬の味を隠すためや、胃や腸で特定のタイミングで溶けるようにするためのもので、安易に粉砕や分割を行うと、その薬効が損なわれる可能性があります。さらに、粉砕によって有効成分が体内で急速に吸収され、患者に影響を及ぼすことも報告されています。

 錠剤の分割に関しては、割線の有無が分割の指標となります。割線がある場合、錠剤は安全に分割できますが、割線がない場合は分割や粉砕を行う前に薬剤師に相談してください。このように、錠剤の適切な扱いにはそれぞれの薬剤の特性を理解し、必要に応じて専門家のアドバイスを求めましょう。

図3 製剤加工してある錠剤と割線がある錠剤


-これからの薬剤管理と看護師の関係について、ご意見をお聞かせください。

 最近、看護師の皆さんの、薬剤に対する意識の高まりを強く感じます。たとえば一包化調剤について、分包紙は空気中の水分を通すことから錠剤が吸湿してしまう問題があるのですが、「この薬剤は一包化調剤で問題ないですか」という質問が増えていることから、薬剤の保管や管理に対する注意が深まり、薬効を最大限に発揮させるための取り組みが進んでいると思います。

 今後の薬剤管理については、IT(情報技術)やAI(人工知能)を駆使してできるだけリスクを減らし、配薬や与薬に費やす不必要な時間を減らすことが理想であり、そういった仕組みの開発に薬剤師が責任をもって携わっていかなければなりません。その際には、看護師さんたちにも必ず開発に加わっていただき、臨床の実情に合ったシステムを作り上げることが重要だと思います。

(2023年12月18日取材)
¹⁾富田 隆,後藤英和,吉村勇哉,他
とろみ調整食品が酸化マグネシウム錠の崩壊と溶出に及ぼす影響,Yakugaku Zasshi,135:835–840,2015.

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