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その食形態は対象者の口に合っていますか?

第1回 「食べる」をめぐる3つの機能と嚥下調整食がめざすもの

愛知学院大学心身科学部准教授 牧野日和先生 対象者の食べる機能と嚥下調整食の対応~フードスタディで調理や介助のコツをつかむ~

フードスタディで食形態を確認しよう

 ヒトの食べる機能は、「まるのみ」「押しつぶし」「すりつぶし」に大別出来ます。これらの機能が適切に働けば理論上は常食が食べられます。しかしヒトは高齢期や障害を有することでこれらの機能が低下し、「食べる」ことが困難になることがあります。

 常食が食べられなくなった人に対し、誤嚥や窒息などのリスクを回避するために提供する嚥下調整食は、対象となる方の食べ方に出来る限りピッタリ合わせることをめざします。嚥下調整食選択のポイントには①対象者の食べる機能低下や障害を調理によって補う、②対象者が有している機能を食事によって引き出し維持させる、という2つの視点があります。

 食べる機能と嚥下調整食のマッチングは対象者の生命予後を左右しかねない、とても大切な任務です。ところが実際のところ、様々な食物・調理法の中から対象者の食べ方に合わせることは、とても難しいのが実情です。食べる機能は食品物性や一口量など、多因子により決定されます。私が紹介する「フードスタディ」とは、食形態が目標とする食べ方に適応しているかどうか、スタッフが自分の口で確認する会議です。このフードスタディには、“健康な人による対象者の障害を伴う食べ方のリアルな再現は難しい”と言う乗り越えられない課題があります。

 一方、妥当性を高めようと、食べる機能や嚥下調整食を数値化する試みがあるものの、現実的な評価や支援には至っておりません。こう論じている今も、世界中の対象者が食べる機能にミスマッチの調理で食べているリスクを思えば、課題があるとはいえ、物性の誤差を少なくする、スタッフの意識づけが可能、など唯一無二のフードスタディの利点は魅力的です。

食べる機能と食形態の対応

 食べる機能と食形態をまとめると図(日本摂食嚥下リハビリテーション学会、嚥下調整食基準2013を元に筆者が作成)のようになります。対象者の食べる機能を正しく理解するためには、つぎの4つの視点で捉えるとよいでしょう。
①食塊
口の中の飲食物を飲み込みやすい状態に調えること
食塊は口の感覚と運動によって作られる

②集積
食塊を拡散しないよう、口からのど、食道へと送り込む
集積ができず拡散する場合は、誤嚥が危惧される

③駆出
口腔~咽頭の「腔」を順々に閉じながら食塊を送り込む
嚥下圧とも言う

④反射
安全に食べることを支える生得的機能
 この4つの視点で対象者を分析します。一度のみの評価だけで手立てを行ってはいけません。何度も食機能を観察し、状況に応じて柔軟に手立てを変更する勇気が必要です。

 嚥下調整食は、病院や施設、在宅でそれぞれ対応するだけでは立ち行かないと思います。市販品をうまく活用することも必要でしょう。これからの時代は作り手、食品メーカー、地域のレストランやストアなどとの協働が求められます。

 現状では現状ではミキサー食、刻み食などは調理方法分類であり、対象者の食べる機能にマッチしないケースや嚥下食の名称や物性などが施設により異なることが見受けられます。いま求められるのは、食べ方の分類に基づいた嚥下調整食です。国内では、新しい嚥下調整食基準として、ユニバーサルデザインフード、摂食嚥下調整食分類2013(日本摂食嚥下リハビリテーション学会)、スマイルケア食が名乗りを上げました。最終的にどの基準が採用されるのかはわかりませんが、一刻もはやく全国統一された嚥下調整食になり、地域の病院や施設が経営母体の垣根を越えて協力し合えるようになるといいですね。
「日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類 2013」
・Supervision:愛知学院大学 牧野 日和
・Design:visual planning mare
※フードスタディの詳細は、メディライブにてwebセミナー配信中

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