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ナースマガジン vol.37

達人に訊く!高齢者のせん妄 ケアここがポイント!

投稿日:2021.11.08

高齢者看護の達人 日向 園惠 先生 石巻赤十字病院 老人看護専門看護師

2020年の診療報酬改定の項目に、せん妄ハイリスク患者ケア加算が創設され、各施設のせん妄に対する 意識や取り組みも変化が求められてきています。高齢者はせん妄になりやすいと言われており、認知症と せん妄の見極めをはじめ臨床現場での判断やケアに困ることが多々あると思います。今号では高齢者 看護の達人である日向先生に、せん妄と認知症の見分け方や介入のポイントをお訊きしました。

 当院ではまず入院時にせん妄の危険因子をスクリーニングします。そして、せん妄ハイリスクに該当した患者を対象に入院期間中(集中治療領域~一般病棟)は、ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)を用いて継続的にせん妄評価を行います。電子カルテ上の検温表にICDSCの欄を設け、1~8項目ごとの点数と合計点数を入力します。そして、カルテにSOAPでせん妄かどうかをアセスメントしたり、カンファレンスして記録しています。
 ICDSCは本来、集中治療領域で使用するツールですが、患者の協力を必要とせず、簡便で意識状態が悪い場合でも評価可能なので、当院は一般病棟でも使用しています。
 看護師は交代で勤務しているため、日中と夜間の担当の看護師は異なります。そのため、全身状態も含めた“患者の変化”を電子カルテで確認することでせん妄の予兆をみつけることも可能になると考えます。
 せん妄と認知症の症状は似ているようにも見えますが、はっきりとした違いがあります。せん妄の場合は、時間から日の単位で急速に発症し変動します(表1)。
 例えば、昼間は普通の状態だったのに夕方から夜に急にソワソワと落ち着かない、目つきがギラギラしてくるなど症状の変化が極端に現れます。さらに、日中傾眠傾向で昼夜逆転の不規則な睡眠・覚醒リズム障害が出現するといった特徴があります。

 逆に、認知症の症状は徐々に進行していくため時間の変化はあまり見られず意識障害も認めません。
 せん妄の場合はなんらかの直接因子となる身体疾患の変化や薬の影響がありますから、そこを的確にアセスメントして医師や薬剤師などの多職種と協働して、原因を取り除いていきます。

 せん妄の準備因子となる認知症高齢者は不快症状を言葉で表現することが難しくなります。例えば、痛みや便秘があってもそれを言葉で表現できないことでそわそわ落ち着かなく、眠れなくなったり、起き上がったり立ち上がったりしてしまうことがあります。これらがせん妄の促進因子となり、適切に対処されないと、直接因子と重なることでせん妄へ移行してしまう危険性が高まります。

 ですから、認知症高齢者へのケアのポイントとして、認知症のせいだと決めつけず、コミュニケーション障害のために自ら苦痛を訴えられないことを理解し、促進因子である不眠や痛み・便秘などの不快な身体症状を見つけ、取り除けるように、全身を評価していくことが24時間そばにいつ看護師だからこそ重要になります。

 現場では過活動型せん妄患者や命に直結するドレーンやライン類が入っている患者に身体拘束を行うこともありますが、身体拘束はせん妄の促進因子になります。ですので、せん妄を引き起こし悪化させる可能性があることを考慮します。身体拘束が本当に必要かどうか1人で判断せずに、周りの医師や看護師を巻き込んで、どのようにケアを行っていくか話し合ってほしいですね。

 入院したすべての認知症高齢者は、“せん妄を発症する可能性がある”と想定して、特別視せず当たり前のケアとしてせん妄予防や
、早期発見・早期対応を行います。すぐに薬や身体拘束で対応するのではなく、入院前の生活状況について情報収集し、高齢者の特徴を知った上でせん妄を招いた原因をアセスメントします。不必要なドレーンやライン類の抜去を医師と検討し、早期離床を図り、睡眠覚醒リズムを整え、入院前の生活に近づけていくことが何より大切になります。
引用文献
厚生労働省 老健局〈https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf
日本看護倫理学会 身体拘束予防ガイドライン〈http://jnea.net/pdf/guideline_shintai_2015.pdf

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