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便秘患者の排便コントロールの意義 ~東葛クリニック病院の事例から~

投稿日:2022.04.20

チーム医療の先駆けで有名な東葛クリニック病院。このほど褥瘡対策チームのメンバーが立ち上げた排便サポートチームに、排便コントロール(計画排便)についてお話を聞く機会を得ました。

便秘傾向の透析患者、寝たきりで腹圧の弱い高齢者に対して、その患者の希望に沿った適切な排便方法をサポートするため、2018年に活動を開始した同チーム。不適切な下剤の使用による便秘-下痢の悪循環を止め、多職種の専門的な見解をすり合わせ、個々の患者に合った排便コントロール(計画排便)を実施するメリットとは?

医療法人財団松圓会 東葛クリニック病院
千葉県東葛地区の透析医療の中核病院として45年の歴史を持つ。
透析患者に生じる合併症に対応すべく、外来での患者サービス向上に注力。 病床95床、透析35台。
医療法人財団松圓会東葛クリニック病院排便サポート(褥瘡対策)チーム
監修:医療法人財団松圓会東葛クリニック病院排便サポート(褥瘡対策)チーム
写真左より
中村 和彦 先生(管理栄養士)
張 灵宝 先生(病棟看護師)
浦田 克美 先生(特定看護師/皮膚・排泄ケア認定看護師)
秋山 和宏 先生(医師/副院長)
佐野 由美 先生(臨床検査技師)
大塚 菜月 先生(薬剤師)
髙品 尚子 先生(作業療法士)

エコーで便も見えるといいのにね

水分制限のある透析患者や療養病棟で寝たきりの高齢患者を抱える東葛クリニック病院で、排便サポートチームを立ち上げたきっかけを教えてください。

浦田:  当院では2008年から褥瘡エコーを取り入れていました。その際、便失禁によるIADの発生や、仙骨の褥瘡治療のためにオムツを開けると排便されているなどの状況があり、褥瘡対策の観点からも排便トラブル予防が課題となっていました。ある日「エコーで便も見えるといいのにね」の一言があり、そこから見えない便の可視化への本格的な取り組みが始まりました。
佐野:  一般的な経腹エコーによる便形状の観察方法は知られていましたが、当院は透析患者が多く、水分制限により尿量も少ないため、腹部から直腸の便をエコーで見るのは難しいと思っていました。そこで何とかきれいに見える部位はないかと、自分の体のあちこちにプローブを当てて、ついに肛門の近くから下部直腸部にプローブを当てるときれいに見えることを突き止めました。これが経臀裂エコー、通称「便エコー」です。こうして便エコーの確立を機に、2018年より排便サポートチームが立ち上げられ、褥瘡回診に合わせて活動をしています(写真1・2)。
写真1:回診前に各職種からの情報をすり合わせる
写真2:ブリストルスケールの便形状をエコーで判断することも可能
 エコーの存在は私たちの活動や医療の質向上にとって、大切なものです。プローブを正しい位置にあてると便の位置、量、状態などの情報が読みとれるのですから。それによって「3日間出なければ下剤、それでも出なければ浣腸や摘便」といった後手後手の便秘対策から、根拠ある排便コントロールへと視点も変わっていきました。浣腸が効果的に作用する便の位置をエコーで判断できるようになるにつれ、検査部でもその意義が認められるようになり、他の臨床検査技師も便エコーを扱えるようにと、後任の育成にも注力しています。

便エコーによる便性状の可視化 各職種の視点と関わり

便性状の可視化で、何が変わりましたか。

浦田:  見えない便に対する不適切な下剤の使用で起きていた下痢や、突然の便意に対する事前の準備が間に合わないことによる業務負担を大幅に減らすことができています。
大塚:  今までは、「便が下りてきた気がする」という患者の主観で薬を選んでいましたが、直腸付近まで便が下りてきているのに大腸刺激性の下剤を選択するような誤った使用もありました。今は便の可視化によって、便秘のタイプに合った適切な下剤を選択できるよう、アルゴリズムを作成し活用しています。便秘のタイプを分類し、どれに該当するからこういう理由でこの薬が適切、という治療指針につなげていけたらと考えています。患者に対しても、「この薬で効かなければこの薬」という対応では、効果が出るまで便秘の不快感が解消されません。そういう薬剤の無駄や患者の不快感を解消する意味でも便エコーの活用は有用だと思います。
 排便サポートチームが活動を始めた2018年から2021年までの便秘薬使用量のデータをとっていますが、本来屯用なのに日常的に使われていた刺激性下剤の使用量が半分ほどにまで減り、腸内の水分を保ち、蠕動運動を活発にすることで便を出しやすくする効果のある新薬の導入・使用が増えています(図1)
秋山: 便エコーに基づく薬剤選択のアルゴリズムは再現性に繋がり、他の患者に対しても応用が利くので、今までの経験や勘による選択がロジカルに整理された意義は大きいですね。
浦田: 便秘のタイプが正しく評価されず適切ではない薬が処方されて効果が出ないのに、薬の量を増やすという対応がありがちでした。便が出ればいいのか(出せばいいのか)、便性を改善したいのか、そういう価値観や目的もばらばらでした。今回アルゴリズムができたことで、それらを見直すきっかけにもなりましたし、1週間ごとの回診で、エコーから得られた情報と実際の患者の状況から薬剤の評価をすることも容易になりました。

 さらに、排便に必要な腹圧のトレーニングにも、エコーは使えると思います。骨盤底筋は腸の動きにも影響しますから、どこに力を入れるとどこがどう動くのか、実際に患者がエコー画像を見ながら腹圧をかける訓練はADLの高い方には有効だと思います。
図1:入院患者の刺激性下剤使用推移 (提供:薬剤部 大塚先生)
図1:入院患者の刺激性下剤使用推移 (提供:薬剤部 大塚先生)

排便サポートチームの稼働で、病棟の負担もかわりましたか。

張: 水分制限や高齢で下肢筋力の低下による便秘の方が、当院には多くいます。夜中であろうと業務が立て込んでいようと、便意を訴えられると20:1の看護では看護師が対応しきれないこともあり、困っていました。しかしエコーで便がたまっていることを確認してから下剤を調整するようになり、毎日スムーズに計画的に排便でき、夜中に排便サポートにかかりきりになることもなく、病棟看護師としてはとても助かっています。浣腸や摘便などの刺激的な治療を必要としなくなった患者にも、感謝されています。
浦田: 漫然と刺激性下剤を使ってシーツまで汚れるような水様便が出るたびに、二人で30分ほどかけてその後始末をしていました。そのオムツとシーツの交換にかかる人件費を計算し、排便サポートチームが関与して下剤の種類を変え、計画排便を行ったときの対応業務時間とを比較すると、計画排便により業務時間は1/10にまで減っていました。
佐野: 患者の中には自分にはこの薬、と便秘薬にこだわりの強い方も多いのですが、回診時に画像を一緒に見ながら「こういう状態なのでこちらのお薬の方が効果的なのですが試してみませんか」、と提案すると受け入れてくださることも多くなりました。
浦田: 病棟で日常的に便エコーが使えるようになると、さらに効果的・効率的な排便コントロールが可能になると思います。時間軸だけで3日以上排便が見られなければ浣腸や摘便で出す、という基準を設けているところも多いですが、そうすると便がない人や下りてきていない人にまでケアを行ってしまい、患者さんにとっては辛いだけです。便エコーで直腸まで便が下りてきていないと確認できれば浣腸の適応ではないので、ケア計画も変わってくるはずです。

排便サポートの実際

排便サポートへのアプローチとして、食事面からはどのようなことを実践されているのでしょうか。

中村: 食べる量そのものが少ないと便の材料も少なくなり、便秘の原因となります。便秘症状によって食欲がわかないという悪循環にも陥りがちです。食が進まない方はどういう理由で食べられないのかを評価し、食べられる食事をお出しするようにしています。お通じに良いとされている食物繊維や発酵食品も意識していますが、そもそも当院にはカリウムの制限がある透析患者や、食物繊維を多く含むキノコなどは食材として適さない、嚥下に問題がある方も多いので、その調整をしながら献立を考えています。食事はすぐに効果が現れるというものでもないので、薬剤でのコントロールがメインにはなりますが、食事で何かできることはないかと考えながらチームに参加しています。
以前、食欲の低下している方があまりに召し上がらないので「どうして食べないのだろう。認知症なのでは」とまで言われていたのですが、エコーによって便がたまっていることがわかりました。計画的に摘便をしたところ、880gもの排便があり、その後、とてもよく食べるようになりました。

高齢者の低栄養が問題になっているなかで、便秘による食欲低下は見逃せませんね。他にもポイントとなることはありますか。

浦田: 寝たきりの方は自力で排泄するのは難しいですが、自分でトイレに行ける方は便の出やすい正しい姿勢を指導します。
張: 圧迫骨折で入院され歩行困難でまったく力が入らず、定期的に浣腸・摘便の対応をしていた方が、リハビリが始まって歩けるようになり下剤による排便に変更したところ、服用してすぐに自然排便が見られました。リハビリの好影響だと思います。

計画排便が必要なのはどういう方たちですか?またどんなメリットがあるのでしょうか。

秋山:  まず、適切な薬で自力でスムーズに排便できる方です。排便周期を把握し、その周期で快適に排便できるよう服薬計画を立てます。
浦田: 透析患者は、透析中の便意や便失禁は避けたいので、排便サポートチームとしても安心して透析を受けていただけるよう、非透析日の計画排便で摘便を提案することもあります(図2)。
図2:透析患者の計画排便
図2:透析患者の計画排便
 ナースの手の足りない夜中に摘便を依頼されることもなく、病棟、特に夜勤のナースにとっても安心だと思います。透析患者でなくても、ご自身がこの間隔で出したいという要望がありますので、計画排便は患者へのメリットが大きいと思います。
張: 寝たきりの方は排便日誌で周期を、エコーで便の状態を確認しながら計画します。下痢や嵌入便の脇から漏れ出てくる便は褥瘡悪化のリスクも高くなるので、不適切な下剤使用による下痢を防ぐ排便コントロールはとても大切です。

チームの方針として、浣腸や摘便、便形状についてはどうお考えですか。

佐野: 浣腸・摘便に対して私たちはそれほどマイナスイメージを持っていません。当初は自己排便が目標だったのですが、寝たきりの患者には排便をする力がないので、薬剤の効果が活かせません。そこで、そういう方たちには計画的に浣腸・摘便をすることにしました。
秋山: これらを含めて計画排便と捉えるようになりました。便の形状もケースバイケースです。多少緩めでも便を出すことを優先している場合は、その目的が達せられれば良しとします。
浦田: 腹圧がかけられず摘便が必要な場合は、柔らかいよりも少し硬めの便の方が取り出しやすいので、便が少し硬めになるように薬を調整してもらっています。同じ腹圧が弱い方でも便座に座ることで排便できる方は、少し緩めの方が出しやすくなりますから、個々の状況に合わせて考えることが排便サポートチームの共通認識です。

チームで取り組む排便コントロールの意義

多職種で排便コントロールに取り組むことの意義とは?

浦田: 回診時、それぞれの職種が専門的な視点から多角的に評価して治療方針をたてられることです(図3)。検査技師が画像を読影し薬剤師はそこから適切な薬剤の選択・調整を医師と共に決定していきます。管理栄養士は食事から、作業療法士は日常生活における心身のリハビリテーションから、快適な排便へのアプローチを試みます。次の回診迄の1週間の様子を病棟看護師が観察し、患者の本音と共に効果を伝えてくれます。病棟ナースとの連携があってこそ、患者を中心としたケアが可能になります。
図3:排便サポートチームの取り組み
秋山: 私たちは職種別の情報を回診時前のカンファレンスですり合わせています。チームの良さは、各職種のロジックを組み合わせ拡大できること。それぞれの専門性を分担しながらそれぞれの職域を拡大させ、チームで介入することで今までにない新しいことを発見したり、新しいアプローチができるようになったりします。それが医療の質向上につながると考えます。
 排便トラブルは古くからあった問題ですが、解決する手立てがありませんでした。今は新薬が開発され、ハンディエコーが普及し、我々のようなチームが稼働するとともに、徐々にエビデンスに基づいた排便ケアが確立されてきました。チームの取り組みで得た知見を、最終的には在宅で排便について困っている患者、家族をサポートできる指針として確立していきたいと思います。
(2022年1月13日取材)

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