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教えて 吉田先生! 【知っておきたい!高齢者の栄養管理 サルコペニア・フレイル予防】

第3回 低栄養の診断に骨格筋量が必要なワケ

投稿日:2023.01.31

前回はGLIM(グリム)基準の実際の使い方をご紹介しました。

今回は、GLIM基準の診断をするうえでも重要とされている骨格筋量について、低栄養の考え方の変遷とともにお伝えします。

1.低栄養による弊害のパラダイムシフト

①発展途上国の小児の低栄養

 現代社会で低栄養の弊害が注目されたのは、まず発展途上国の小児の問題でした。飢餓や紛争により食品供給が不足し、たんぱく質やエネルギーを十分に摂取できず、著しい体重減少をきたした小児が多数認められました。これをマラスムス(marasmus)といいます。身体機能は著しく低下し、高度な発育障害を呈し死亡することもありました。

 その後小児では、著しい体重減少は認めないものの手足に浮腫を認め、適切な治療を行わないと短期間で死亡する異なったタイプの低栄養も報告されるようになりました。これをクワシオルコル(kwashiorkor)といいます。当初は、糖質を中心とした食事のみでたんぱく質が欠乏したために発症したと考えられましたが、その後の研究でカビに含まれるアフラトキシンや、酸化ストレスの影響、炎症性サイトカインの影響などさまざまな因子が関連していると考えられ、詳細は明らかにされていません(※1)。

②入院患者の低栄養

 1970~80年代、入院中の患者の低栄養が注目されるようになりました。栄養投与の手段が発達していなかった当時、糖電解質の輸液で管理された患者は、著しい低栄養を呈していることも少なくありませんでした。「病院のクローゼットに隠された骸骨(Skelton in the hospital closet)」(※2) という言葉が生まれたのもこの頃です。低栄養のために予後が悪化し、死亡する症例も少なくなかったのです。

③高齢者の低栄養

  2010年、Jensenらは摂取量の不足のみならず、疾患による炎症が低栄養の原因として重要だと提唱しました(※3)。また世界的に高齢化が進行し、高齢者におけるフレイル、サルコペニアが注目されるようになり、低栄養はフレイル、サルコペニアの重要な要因のひとつと位置づけられました。栄養アセスメントにおいても、フレイル、サルコペニアに配慮する必要が生じ、わが国でMNA(※4 ※5)が普及したのもこの頃です。
 
 サルコペニアと肥満を合併しているサルコペニア肥満という概念も生まれ、全体の体重よりも、骨格筋量が重要だと考えられるようになりました。高齢者の転倒、骨折を防止し、日常生活動作(ADL)の低下を防ぐためにも、低栄養を防止することが重要だと考えられるようになりました。

 このように、国際社会や医療環境の変化とともに、重要視される低栄養の病態とアウトカムが変遷していきました。これが現在、低栄養の診断に骨格筋量が必要な理由のひとつです。


2.骨格筋はたんぱく質、エネルギーの貯蔵庫

 低栄養の診断に骨格筋量が必要な理由のもうひとつは、骨格筋はたんぱく質、エネルギーの貯蔵庫であるということです。

 たんぱく質摂取量が減少すると、生体機能を維持する機能性たんぱく質の合成が低下します。これを補うために、細胞内ではオートファジーによって小器官や異常たんぱく質を分解、アミノ酸を再利用します。体内では骨格筋が分解されアミノ酸として利用されます。骨格筋の分解によって産生されたアラニンは、糖に作り変えられて、エネルギーとして利用されます。

 飢餓時に備えて、骨格筋はたんぱく質、エネルギーを貯蔵しています。骨格筋が減少しているということは、貯蔵されているたんぱく質、エネルギーが減少している、つまり低栄養である証拠なのです。

低栄養の診断のために骨格筋量が必要なワケ、理解していただけたでしょうか? でも、骨格筋量なんて簡単に測れない……。そんなときどうするかについては次回で解説いたします。
参考文献 
(※1)吉田貞夫:医事新報4684, P94, 2014
(※2)Butterworth CE:Nutrition Today . 1974(March/April), 4-8, 1974.
(※3)Jensen GL, et al.:Clin Nutr.29(2): 151-3, 2010.
(※4)雨海照祥(監), 吉田貞夫, 宮澤靖, 田村佳奈美(編)ほか:MNAガイドブック. 医歯薬出版, 2011
(※5)吉田貞夫(編著):高齢者を低栄養にしない20のアプローチ. メディカ出版, 2017.

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