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ナースマガジン vol.46

達人に訊く!「抗菌薬の適正使用を支える看護」ここがポイント!

投稿日:2024.02.22

抗菌薬の選択や使用は医師の仕事であり看護師は関与しない、その考え方は大きく変わりつつあります。使 える抗 菌 薬 が なくなり治 療 する術 が なくなってしまうかもしれないという瀬戸際に立たされている状況下で、看護師はどう考えどう行動すればいいのでしょうか。
今回、抗菌薬を適正に使 用するために看護師が 行うポイントを、箕面市立病院感染制御部副部長・感染管理認定看護師の四宮聡 先生にお話を伺いました。
橘 優子 先生
抗菌薬の適正使用を支える達人
四宮 聡 先生
箕面市立病院 感染制御部 副部長
感染管理認定看護師
今まで「抗菌薬は苦手だし私には関係ない」と思っていた方も多いと思いますが、疑問に思ったことや気になったことは、主治医・感染管理認定看護師・病棟薬剤師に声に出して伝えようとすることから始めてみてはいかがでしょうか。実はその行動は皆さんがいつも心がけている「患者さんのために何ができるか」に繋がっています。それをきっかけに抗菌薬を学ぶ機会を持ち、その奥深さに気づいてもらえたら嬉しいです。

四宮先生から読者の皆様へメッセージ

抗菌薬の適正使用をサポート

抗菌薬使用の問題

 現在、抗菌薬の耐性化が進んでいる問題は、COVID-19と同等またはそれよりも大きいと言われ始めています。その最大の理由は、抗菌薬を作る難しさや、下がり続ける薬価などによって新たな抗菌薬を創薬しにくい環境にあると考えられています。耐性菌のスピードが止まらない中、創薬できないという状況は、高度な耐性菌による感染症では治療する術がないフェーズへと向かうことになり、かなり差し迫った危機として認識されています。そのため、今まで以上に抗菌薬の適正使用への取り組みが求められ、看護師も抗菌薬の使用に対する意識を高め、知識を深めていくことが求められています。

AST活動による効果的な連携と感染対策の実践

AST(Antimicrobial Stewardship Team:抗菌薬適正使用支援チーム)とは一般的に医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師で構成され、抗菌薬適正使用を支援するチームです。耐性菌の検出を未然に防ぎ、感染症の治療を効果的に行いながら、副作用を抑制できるよう主治医と協力して治療をサポートします。
 当院では十数年前、入院患者さんから多剤耐性緑膿菌が検出されたことをきっかけに、院内全体で抗菌薬の適正使用の取り組みを始めました。当院のASTは医師・薬剤師・感染管理認定看護師・臨床検査技師の4人で構成され、感染症専門医不在の中、感染制御部が担うことになりました。感染管理認定看護師として専従で勤務していた私が活動の中心となり、医師・薬剤師の支援を受けながら院内周知に努めました。知識も経験も乏しい中で様々な患者さんの抗菌薬適正使用支援活動を続け、担当医ともコミュニケーションをとっていくと、次第に医師から相談が寄せられるようになりました。感染管理認定看護師の立場として、「1回量を多く」「回数を増やす」 「この種類に変更した方がよい」などの提案をしていくことで、看護師と医師のパイプ約となり、抗菌薬のより適切な選択や治療方針の調整が可能になり、ASTの活動を拡大させていきました。

患者さんの身近にいる立場としてできること

 看護師は患者さんの状態を最も近くで観察しているため、抗菌薬の効果や副作用の有無、またその使用が本当に適切かどうかを観察することが重要です。効果が不十分と感じた場合や副作用が出現した場合には、主治医や薬剤師に相談し、必要に応じて治療方針の変更について確認することも必要です。最初は言いにくいことかもしれませんが、患者さんの近くで観察し最も多くの情報を持っている看護師は、ASTの活動において不可欠な存在です。このような積極的なコミュニケーションが、患者さんの安全と健康を守っていると考えていただきたいと思います。
 処方は医師の役割ですが、患者さ患者さんに投与するのは多くの場合看護師です。表1は日々の業務でもアセスメントすることが可能です。そのためにも、ベッドサイドでの変化や症状(発熱、下痢など)を経時的に観察し、患者さんの声を伝えることで、抗菌薬の適正使用をサポートし、AST活動の連携と質を強化することができます。


症例紹介

A 氏 :80歳代 男性
腎膿瘍を発症し、3週間程度の治療目的で入院
 2週間の点滴治療で症状・血液データの改善が認められたため、抗菌薬を1日3回内服する治療に切り替え、残りの治療期間は自宅で療養することとなり退院した。
 数日後、症状が悪化し救急外来を受診。検査したところ再発が認められた。
 本人に話を聞いたところ、1日3回内服すべき抗菌薬を「1回でいいかな」と考え、正しく内服していなかったことがわかった。

治療後の方針

 再入院し点滴治療をしつつ、本人の意向を聞いた上で主治医と看護チームで話をしました。本人の「食事の後、毎回薬を沢山飲むとお腹いっぱいになるので1日3回も飲めない」という発言から、確実に内服できる1日1回の薬に処方変更する方針となりました。

生活背景を把握し継続可能な処方

 抗菌薬の適正使用はその患者さんの感染症を治すことがゴールであり、たとえ同じ疾患・同じ年齢の患者さんであっても同じやり方が当てはまるわけではありません。医療従事者からすると、腎膿瘍は再発や難治化の危険性があるため、処方された抗菌薬を考えるかもしれませんが、これは私たちの認識が甘いと言わざるを得ません。患者さんがその意義を理解して服用する(アドヒドヒアランス)ことにつなげるためには、本人の生活背景や服薬状況(例:現在どのような薬をどれくらいの頻度で服薬しているのか、アドヒアランスはどうか)を把握した上で、最も効果が得られる抗菌薬を選択する視点が重要で、これは看護師が患者さんとのかかわりの中で得られる情報だと思います。それを医師や薬剤師と共有した上で服薬方針をたてることで、適切な使用につなげることができます。



今後は地域のクリニックと連携し情報共有や知識の普及を

情報のハブとなる

 今後は、退院した患者さんたちが在宅で過ごしていく際にも抗菌薬の適正使用は重要です。この取り組みを病院から地域へ広げていく必要があります。その根拠として、処方されている抗菌薬のうち90%は内服薬でその多くはクリニックで処方されていることが挙げられます。そのため、クリニックの医師と連携することは大切です。

 当院では感染対策向上加算1を算定しており、現在5病院20ヵ所のクリニックと連携しています。

 また、下記の活動を通じて抗菌薬の適正使用に関する情報発信減となる役割を担っていると考えています。
▶ 抗菌薬に関する基礎知識の啓発:
 抗菌薬の基礎知識を広めるための活動

▶ 動画配信:
 最新のトレンドを踏まえた抗菌薬に関する情報提供

▶ 年4回のカンファレンス開催:
 抗菌薬の適正使用に関するデータに基づいたフィードバックや啓発

▶ 専門家団体のガイダンスの紹介:
 供給が不安定な状況における抗菌薬の選択や代替薬の考え方の情報提供

▶ 処方に関する相談への対応:
 抗菌薬処方に関する相談需要

参考文献
AMR臨床リファレンスセンター AMRの院内感染対策 抗菌薬の適正使用について
https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-5-1.html

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