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ナースマガジン vol.35

褥瘡状態評価スケール 改定 DESIGN-R®2020 新たに評価項目を追加した背景とは?

投稿日:2021.05.24

褥瘡状態評価スケールDESIGN-R®は、2002年に日本褥瘡学会より発表されたDESIGNを基に2008年、2013年に改定を重ねてきた。今日、診療報酬の入院基本料の算定においても用いられており、世界的にも高く評価されている。そして2020年、改定DESIGN-R®2020が発表された。
今回追加された評価項目の理解を深めるため、改定に至った背景について紹介する。(編集部まとめ)
<監修>
一般社団法人 日本褥瘡学会理事
山口県立大学副学長 兼 看護栄養学部教授 
同大学院健康福祉学研究科教授
田中マキ子先生

DESIGN-R®改定に至るまで

 DESIGN-R®が日々使用されている中、日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン」では、「深部損傷褥瘡:Deep TissueInjury」や「臨界的定着:Critical Colonization (クリティカルコロナイゼーション)」について取り上げていた(参考1)。しかし 、DESIGN-R®の評価にはそれらが含まれていないという齟齬が生じていたことから、改定DESIGN-R®2020で組み入れる方針となった。

 一方 、急性褥瘡における「深部損傷褥瘡( DTI )疑い 」や「臨界的定着疑い」については、エビデンス解明の途上である。

 DESIGN-R®への追加は肯定的な意見が大半であったが、「根拠が揃っておらず時期尚早では」という意見もあり、追加にあたってどのように落とし込んでいくかが議論された。

 その中で、同学会学術・教育委員会委員長の田中マキ子先生は、観察によって得られたデータを利用する「リアルワールド・データ」の考え方から今回の改定の意義を再認識したと述べている(参考2)。今回の改定では、「深さ」に「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」を、「炎症/感染」に「臨界的定着疑い」が加えられたが、全体の合計点には反映されないこととなった。

深部損傷褥瘡(DTI:Deep Tissue Injury)疑い

表皮剝離のない褥瘡に限定されることなく、急性期褥瘡で皮下組織より深部の組織の損傷が疑われる病態。「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と判断することで、深達度が確定しにくい褥瘡の深さを採点することが可能になる。
「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」を含む急性期褥瘡の所見は、発赤、紫斑、浮腫、水疱、びらん、浅い潰瘍などがある。

臨界的定着(Critical Colonization)疑い

「定着」と「感染」の間に位置し、「両者のバランスにより、定 着よりも細菌数が多くなり感染へと移 行しかけた状 態」。
肉眼的には明らかでないものの炎症が生じており、バイオフィルムを伴う細菌感染が生じている。「臨界的定着(CriticalColonization)疑い」であると認識し、感染褥瘡に準じた対応をすることで、感染への進展防止や、治癒を促進させることが可能になる。
創面にぬめりがあり、滲出液が多い、肉芽があれば浮腫性で脆弱などの所見が観察される。
(参考2)より一部改変

“気づく”ことを意識するための改定

 今回の観察項目の追加は、創部の変化に“ 気づく”ことを意識するための改定ともいえよう。今までのDESIGN-R®では、急性の深部組織の損傷を評価する指標がなかった。そのため、初回アセスメント時に「浅い褥瘡」と評価してしまい、創部の経時的な観察が不十分となり、重症化してしまう事例が多くみられたという。

 そこで、DESIGN-R®2020では、急性期褥瘡で深部組織の損傷が疑われる病態を「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」とみなし、深さ(D)の項目に「DTI」を追加したことによって、急性期褥瘡でみられる水疱や表皮剥離を伴う深部組織損傷評価の難しさを補えるようになった。

 「臨界的定着疑い」も、炎症や感染症などの悪化に気づくための評価項目がなかったことで、同じケア・介入を漫然と繰り返し、治癒が遅延する症例が多々みられた。このような場合に、今回の改定で“「臨界的定着疑い」と気づく”、あるいは“注意する”観察項目が追加されることで、迅速に適切な褥瘡管理につなげることができる。今後はこれらのエビデンスが明確になっていくことで、将来的にはスケールの点数に反映されるようになると考えられる。

 改定DESIGN-R®2020は今までと同様に、評価の仕方や評価時に迷いやすい箇所を啓発し、データを積み重ねていくことによって、より正しい運用(重症度評価と治癒過程の数値化)やより良い褥瘡管理につながるだろう。
(参考 1)一般社団法人 日本褥瘡学会編 褥瘡ガイドブック第2版 照林社.2015
(参考 2)一般社団法人 日本褥瘡学会編 褥瘡状態評価スケール 改定DESIGN-R®2020コンセンサス・ドキュメント 照林社.2020 

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