1. ホーム
  2. コラム
  3. 高齢者の介護予防 スキンフレイルとフットケアの視点から
看護・医療 しゃべり場 オンライン対談編

高齢者の介護予防 スキンフレイルとフットケアの視点から

要介護状態になるきっかけの一つ「転倒」に注目し、公衆衛生領域の「スキンフレイル予防」と臨床領域の「フットケア」というあまり接点がなかった二つの観点から、介護予防を考えます。

2018年に発表された「スキンフレイルチェック」の開発者である飯坂真司先生と、運動機能に重要な役割を担う足を支えるフットケアを実践している足のナースクリニック代表の西田壽代先生にオンラインで対談いただき、 お互いの取り組みの融合が介護予防にもたらす可能性を語っていただきました。(文中敬称略)

共通項は介護予防

飯坂 全身のフレイル (虚弱) とスキンフレイルには関連があることが、 私たちの研究で明らかになっています※。 そこで、 高齢者のスキンフレイル予防には、健康な状態からフレイルの状態の方たちにアプローチすること、 全身のフレイル対策 (例えば栄養) も含めたトータルなスキンケアが重要ではないかと考えました (図1) 。
褥瘡や創傷を抑えるための予備力を高めてゆくことが、 公衆衛生の面で大切になってくるため、 手軽に観察できるスキンフレイルチェックリスト (図2) を活用し、 スキンフレイルの早期発見 ・ 早期対応に努めています。
 私は現在、 地域の高齢者のフレイル予防の取り組みとして 体力測定 ・ 認知機能測定・食生活チェックなどを行っています。 これらの場面でスキンフレイル対策も取り入れ、 こののチェックシートを使用し、 高齢者自身に身体と皮膚の状態を意識してもらうような活動をしています。

 臨床現場でのフットケアは、 介護予防としてのどのように取り入れられているのでしょうか?
西田 私自身は病院や高齢者施設、 訪問看護ステーションでのケアの実践やスタッフ支援、クリニックやフットケアサロンでの予約制でのケアの実施等、 健康な方から終末期の方まで現在は幅広く関わらせて頂いています。

例えば足の爪の管理 一 つで歩行状態は大きく変化し、 安定した歩行ができるようになることもあります。 処置だけでなく正しい爪の切り方についての指導や足にトラブルを抱えた方の靴の選び方など、 介護予防につながる教育も実施しています。
飯坂 介護予防は様々な観点から全身に介入していかなければならないわけですが、 フレイル予防においてレッグ (下腿) はよく観察してきましたが、 フット (足首より先) まで十分に観察できていませんでした。 西田先生はどうですか?
西田 確かに外来にみえる患者様は足先に問題を抱えている方が殆どです。 しかし、 先端部に症状が出る人は足全体に影響があると考え、 患者様やスタッフには膝下の方までしっかり観察していただくように必ず伝えています。 足部の状態に関して言うと、 乾燥、 筋肉量や脂肪組織の減少、 踵の脂肪層が薄くなるなどが見られますね。

 新型コロナウイルス感染症の影響で外出の機会が減ったことによりADLの低下が予想されるため、 なるべく自宅でも出来るちょっとした運動を行うよう指導して、 筋力低下予防を声掛けしています。 筋力が低下すると転倒リスクの問題も伴います。また家の近くへ出かけるときでも、 安全に歩くための靴の選び方 ・ 履き方などを指導しています。
飯坂 私たちも現在は地域での活動が以前のようにできていないので、 状況が落ち着いたら自粛がどれほど筋力に影響したのかも研究していく予定です。
※「フレイル群では健常群に比べ、 有意に『はり低下』はり低下 得点が高い」(飯坂真司、真田弘美、安部正敏、田中秀子:地域高齢者に対するスキンフレイルスクリーニングツールの開発と妥当性評価.日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌2018 ; 22(3):287-296.)

指導する側にも悩みが

飯坂 地域が主催している体操教室に参加している人を見ていると、 自身で足先まで意識してみていない方が目立ちます。 介護予防の場において、 個々の生活背景や性格にあった個別的な指導にまで踏み込むことはとても難しいです。 運動に適した靴など一般的な情報を与えることは簡単ですが、 本人たちが実施できる環境にあり、 フットケアをする意味を理解してもらわなければ予防に繋がりません。 西田先生は、 本人にフットケアについて関心を持ってもらうため、 工夫していることがありますか?
西田 難しいですよね。 意欲や病識のない人への支援は私たちも苦戦します。 認知症の方となると周囲でサポートする方たちからの情報収集から始めなければなりません。健康な人たちは友人からの紹介や口コミを利用して外来に来られる方が多いですね。そういったネットワークも大切ですし、 やはり自分がフットケアについて発信する場を増やすことが、 関心をもってもらうチャンスだと思っています。
飯坂 ぜひ私たちのところにも講演に来ていただきたいです。 また、 地域の予防活動の場に参加される方に専門的なケアや靴が必要になった場合、 私たちは紹介先やアドバイスに困ることが多いのですが・・・。
西田 それは私たちも課題としてあげていたことで、 そういう困りごとのサポートや連携強化のために、 日本トータルフットマネジメント協会 (JTFA) を創設しました。 病院からでもフットケアサロンからでも、 相談を受けたときに、 自分のところでは解決できない場合、 安心して紹介できるネットワークを構築したいと思っています。 また、 今協会ですすめていることとして20名ほどのフットケア衛生管理士達が、 こうした時代だからこそ、どの業種でも活用できる衛生管理マニュアルを作成しています。

JTFAでは、10月10日に「#フットケアを止めるな」と題して、第14回多業種フットケア研究会を開催します。ほかにも、 会員限定ですが 「足ゼミオンライン」 という気軽に参加できる勉強会や、 過去の講演会を動画配信で見られたりもするので、新型コロナウイルス感染症の影響で人が集まることができない代わりに、是非ホームページにアクセスしてみて下さい。

スキンフレイルチェックとフットケアの融合

飯坂 臨床領域のフットケアと公衆衛生領域のフレイル予防は、 これまであまり接点がなかったというのが正直なところです。 今後は地域包括ケアの中にフットケアを取り入れることで、 今健康な人が将来的に意識や興味を持ってもらうことによって、 リスク回避-介護予防につながるのではないかと期待しています。
西田 臨床現場は知識や経験で判断できる部分が多くありますが、 患者様に情報を提供する ・ 支援する上では、 数値化された研究データがあれば、 より供する ・ 支援する上では、 数値化された研究データがあれば、 より効果を伝えやすいですよね。 私たちも確認しやすいし、 信頼性もあります。 スキンフレイルチェックとフットケアは皮膚を観察するという視点は同じなので、 十分活用しあえるものになると思います。
飯坂 そうですよね。 フットケアは大学の基礎教育でどのくらい扱われているのですか?
西田 基礎ではないですが、 私が講師で伺っている大学では、 慢性期と老年期の授業に組み込まれています。 臨床実習にでている学生達は、授業で学んだことを覚えていて、実践してくれたり現状に疑問を持ってくれたりしているようです。 在宅医療が避けられない状況にあるからこそ、 学生の段階で足関する授業が組み込まれているのはとても嬉しいですね。

 足は心の状態を表すと私は思っていて、実はデリケートな部位なんです。 悩みがあっても相談できない人も多く、 それは言い換えると、〝寄り添う看護〞が必要とされている領域ということでもあります。 今後さらにフットケアが医療界に普及していくことを期待しています。
飯坂 看護師の活躍の場は病院だけではありません。 介護予防のために高齢者の足を守るという視点を持つと、 スキンフレイルチェックやフットケアの重要性が理解でと思います。 広い視点を持って、 地域への予防的介入にも参加してほしいですね。
西田 足で悩んでいる人は多いのですが、専門の診療科が少なく、 さらに在宅となるとさまざまなところからサポートを受けるため、 統一 した医療についてはまだ課題が残ります。 私たちは足で困っている人々を 「足難民」 と呼んでいます。 「足難民」 を減らす活動は看護師ならではの仕事だと思います。困っている人達の頼れる場所を是非作りたい、 そう考える仲間を増やし、介護予防への取り組みをもっと広げていきましょう。
(2020年8月28日実施)

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム