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ナースマガジン vol.37

【何ぞやシリーズ第31回】『PICS Post-Intensive Care Syndrome』って何ぞや?

近年注目され始めたPICS(集中治療後症候群)。ICU入室患者の約1/3がPICSを合併していると言われています。退院後も長期にわたり身体的・精神的な問題を抱えていく可能性があることを、ICUだけでなく幅広いフィールドの看護師をはじめとした医療者が知り介入していく必要があります。

介入が注目され始めたPICS

PICS(post intensivecare syndrome:集中治療後症候群)は重症患者さんが集中治療を受けた後に生じる身体・認知・精神の障害のことよ。
この前ICUから戻ってきた患者さん、見た目にも痩せちゃってたなあ。これもPICSの症状なんだね。
そう。重症患者はとにかくたんぱく質が必要なの。以前はICU入室中は体を動かせないから廃用症候群で痩せると考えられていたけれど、重症患者になるほど炎症も強くなるから、免疫系を維持するためにも傷ついた体の修復のためにもたんぱく質が必要になるわけ。さらにその炎症が筋肉や神経にダメージを与えるICU-AW(ICU-acquired weakness:重症患者に起きる神経筋合併症) も影響して全身の筋肉が低下するのよ。ICUでも早期リハビリに取り組んで、身体機能低下を予防することが求められているのね。
認知機能障害は年齢に関係なく、20代、30代の患者さんでも起こる可能性があるんだってね。入院中はとくに困らなくても、社会復帰したら複雑な計算や判断が必要な仕事が以前のようにはできなくなって、認知機能障害が表面化して仕事が続けられなくなることもあるみたい。それが原因で解雇されちゃったら本当に大変なことだよね。
ノンテクニカルスキルを教育するため、アメリカで開発された「チームSTEPPS(※チーとしてのより良いパフォーマンスと患者安全を高めるための戦略とツール):チームステップス」というツールがあるんだ。チームワークを向上させて、医療事故を減少させるのに有効だといわれているよ(2)。

特に感染対策では、チームSTEPPSの中の「SBAR(エスバー)と「相互モニター(クロスモニタリング)」というツールが活用されているね。SBARは情報伝達ツールで、看護師から医師への報告の際に使われることも多いんだ。

メンタルヘルスのフォローが大切

ICU入室患者の精神障害についての日本の研究結果では、うつが28%、不安が16.6%、PTSDが6%と報告されているわね。
例えばICUから一般病棟に移った後に「医者が囲んで自分を殺す相談をしていた」という患者がいる。 「回診」という記憶の合間に「殺す相談」という妄想が入るパターンは結構あって、患者自身がそれを本当だと思っていいなくても、ショッキングなできごとや感情的に揺さぶられた記憶は前後関係を含めてよく覚えていて生活の中で突然フラッシュバックする。退院後も何年も続くといわゆるPTSDという症状になり、ICUでの記憶とそれを想起させる病院そのものを避けるようになるケースでは、継続的なフォローアップができなくなってしまうんだ。
私たちには何ができるのかしら?
一般病棟の看護師諸君には、「ICUどうでした?」と声をかけてほしい。患者自身、これが妄想なのかどうか区別がつかず、とても大きな心理的負担を抱えている場合があるので、僕らから患者さんに呼びかけて現実を共有するんだ。でも非常に強い恐怖をもっている場合は医師に相談しよう。また、患者の心理状態が比較的落ち着いていて、ICUの看護師は患者の妄想に思い当たることがあれば、「先生たちは○○さんの治療の相談をしていたんですよ」と説明してもいいだろう。鎮静で記憶が失われている間のことを本人に代わって記録して、覚醒したらそれをもとに説明するのもいいかもしれないね。ケースによっては思い出すことが強い苦痛となり精神科の介入を考慮する必要もあるぞ。
PICSが入院中から退院後もずっと続いていくことを考えると、急性期病院から退院後に生活する地域まで、患者に関わる様々な医療関係者がまずはPICSについて理解することが大切だよね。患者に生じている不安で不快な症状がPICSによるもので、個々に最適な予防法や対処法を僕らも考えているって伝えて、少しでも不安な気持ちを軽減できるようにしていきたいね。
(つづく)
■監修
札幌市立大学 看護学部教授 卯野木健 先生
■参考
Unoki T, Sakuramoto H, Uemura S, Tsujimoto T, Yamaguchi T, Shiba Y, et al. (2021) Prevalence of and risk factors for post-intensive care syndrome: Multicenter study of patients living at home after treatment in 12 Japanese intensive care units, SMAP-HoPe study. PLoS ONE 16(5): e0252167.  https://doi.org/10.1371/journal.pone.0252167
日本集中治療医学会 https://www.jsicm.org/provider/pics/pics01.html

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