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神戸の訪問看護師 藤田 愛さんのコラム

千分の一のコロナの訪問看護⑥

※原文およびその他の投稿内容については、藤田さんのフェイスブックでお読みいただけます。

1000分の一のコロナの訪問看護⑥

神戸市のいい仕組み 迅速な動きと看護師の持つ強みを生かす
自宅療養者への訪問看護の仕組みについてのご質問を受けましたのでざっとまとめてみました。

<仕組みができ上がるまで>

全件入院の方針だった兵庫県で、すぐに入院ができなくなったのは、昨年下旬。
目の前で悪化するさまを見ているしかなかった初めての経験が12月31日と1月1日。救急車要請しても搬送先がなければ不搬送となる。「医療崩壊、病床逼迫」の言葉が聞きなれて、危機感を持てなくなってきていた時期だった。

不慣れなPPEをまとい訪問をしたものの、空床がない、それはこういうことになるんだ、何にもできない、凍り付くような思いで呆然とした。幸い、1床だけ空床が出てそこに入院できるようになり救急搬送できた。

119から24時間以上たっていた。看護師になって以来、初めての経験だった。

「これは序章だ、近く、自宅に入院できない人があふれる」
神戸市では、コロナが始まって以降、コロナになったら保健所とコロナ病床完結の道をたどっていた。在宅医療に携わる診療所も訪問看護師の大半がコロナの自宅療養のトレーニングができていない。

入院できない状況とトレーニングできていないことを合わせて想像し、ヤバイという思考が巡った。兵庫県と神戸市の担当者にヤバイ、今から自宅療養に向けての準備が必要だと説得力のないお願いをし続けた。

年が明け、神戸市は病床の逼迫度が高く、兵庫県の全件入院の方針から離脱し自宅療養を認めざるを得なくなった。

<自宅療養者の訪問看護>

2月8日、私は神戸市と自宅療養者の訪問看護の仕組みについて一緒に考えて、委託契約を交わした。
描ききれないコロナの将来に、とりあえずの見切り発車の電車に乗り込んだ形。やりながらブラシュアップしてゆきましょう。そんな明確な絵図がないから、公募にするのは難しく、いくつかの事業所に声をかけて説明会が開催されることになった。

何社集まるのだろうと思ったら、私一人だった。

通常の訪問看護はかかりつけ医が必要性を判断し、指示書を交付する。この仕組みは保健所と福祉局が担当し健康観察や生活支援の必要な療養者に訪問する。
当初、長期に渡る保健師の業務過多、コロナ療養者宅に訪問できる訪問介護事業所がないことを解決することに主眼を置いたものだった。込み入った医療行為が必要な場合は保健センターからかかりつけ医に連絡を取るというものであった。

しかし、激しかった波が一気に引いたように妙に静かになった2月、ヤバイヤバイは気のせいだったのかと思うくらいだった。落ち着いているのではなくくすぶっている、そんな感じがしていた。公表される数値に私のくすぶりを裏付けるものは見当たらなかった。

しかし、変異株3名と報道されてしばらく経った3月下旬、一気に引いていた波が押し寄せてきた。
3月下旬から4月末まで、保健センター→福祉局→藤田の訪問依頼の電話は休日夜間無関係に鳴り、一日8~13件の訪問をした。

国が変異株について入院でも自宅療養でもPCRが陰性にならなければ隔離解除にならなかったため、膨大な検査を行わねばならず、ひたすら陰性化しないPCRの採取に回った。発症から一か月近くが経っても何回調べても2回陰性にならない人がいて、検査をするこちらの方が申し訳なくなった。
一定の疫学調査に至ったことを理由に陰性検査は中止となった。

そこからは慢性疾患を持つ高齢者の自宅療養者で、健康観察と生活支援とで比較的安定したケースに訪問することが多かった。自宅療養期間は発症日から10日間加えて無症状72時間で隔離が解除された。

元気だった高齢の療養者は、終盤に悪化する傾向があり、療養期間が延長になることも半分くらいはあった。
食材が尽きてレトルトばかり食べていると食欲がなくなる、食材やこれなら食べれそうというものを買い物に行ったりした。かかりつけ医の定期薬がなくなる、便秘や解熱剤などを事情を伝えて処方してもらい、薬局がポストインできませーんだと代わりに取りに行ったりもした。

PCRをオーダーしたもしくは実施したかかりつけ医以外に、こちらから陽性や細やかな情報を伝えることはできず(守秘義務)、本人にまず話してもらってから電話を代わった。実は小さな機会をを見つけては、本人の診療にかかりつけ医に関与してもらう活動を少しずつ始めていた。
重度の知的障碍者の施設でクラスターが起き、接触の濃厚な家族も全員感染したので、家族丸ごと健康観察に行った。

一件ずつ回りながら、数字では1700人、違うんだ、その数字はこのような一人、一家族ごとの変わってしまったあたりまえにあった幸せな日常、苦しみ、悲しみの1+1+1+1、、、、なのだとあらためて知るような思いだった。

4月に入って、週単位でコロナが状況を変えてゆく。
感染者数が増加し、どんどん入院できない方が増えた。
すると中程度、重症化してゆく。
福祉の生活支援を入り口に入った委託業務であったが、命にかかわることが増えていった。

コロナ診療に携わる医師の勉強会にあれこれ参加して、在宅でできる治療について質問したが、返事は決まっていて在宅では無理ですとしかお応えしてもらえなかったが、やっと在宅酸素とステロイドで悪化が防げる情報を得ることができた。

この情報との出会いは最高にうれしかった。

酸素飽和度が下がる、息苦しく動けない。
本人の了承を得て、主治医に連絡をして対応が可能かを相談した。
「一切できません」というお返事も少なくなかったので途方に暮れた。
まだ診療所の医師の介入は難しかった。
懇意にしている医師に相談したらエリア外でも飛んできてくれた。

医師でも初めてその惨状を見ると「これは入院やろ」と顔を引きつらせるが、先生とっくに保健所も入院エントリーしています。順番がまだなんです。耐えきれない医師をたくさん見てきた。私もそうだが、医師でさえ、そばにあったこの状況に直面しないと現実として理解できていなかったのだと思った。

神戸はこのように在宅医療はやや出遅れましたが、かかりつけ診療所、有志のグループ、病院の医師チーム、DMATなどで対応できる医師が増え、訪問看護事業所も徐々に増え、10社が参加しています。
神戸市行政、保健所、病院、在宅の医師、看護師、酸素業者がスピード上げて周回遅れを巻き返しております。
訪問看護師として自宅療養者への訪問に2通り

①この神戸市との委託業務のスキームを活用して、保健師と連携してすぐに動ける。病状、医療、生活ニーズを素早く見立てて必要な支援を見極めて提供する。保健師+看護師+訪問介護業務(医師からの指示書不要)

②通常の訪問看護として、医師から特別指示書を交付してもらい最初から医師、保健師と連携して訪問(医師からの特別指示書交付)。医療介入が必要なケース
*保健所が定める自宅療養期間は医療費は全額公費負担になります。

現在、福祉局、保健所と意見交換しながらブラシュアップ中ですが、公開の許可をいただきましたので、現在のスキームをご紹介します。

メモ(他職種こんなことできたらありがたい):

コロナをきっかけに要介護状態になることがある。

〇介護用ベッドさえあればと思うけど、介護系サービスは隔離解除(感染性なし)まで入れない。協力してもらえたら看護師が医療介入に時間を集中できるのにと思うこと。

〇地域包括支援センターも介護保険サービス事業所もサービスが急ぐときには隔離解除当日にはサービスが入れるよう通常時と違うスピード感を持って入ってほしい。

〇訪問介護で中に入らなくてもいいから、お電話で買い物必要なもの聞いて玄関の外まで運んでくれる。ごみ捨て、感染性のない袋に詰め替えておいて玄関の外に出しておくから捨ててくれる。これがケアプランで認められるとありがたい。

◎状況が大変になるほど保健所との連絡はつながらなくなる、事前に医師、看護師で決めてもいいこと、電話以外の連絡方法を決めておくことができるといいと思います。







(2021.5.10)

つづく・・・
※藤田さんの著書は台湾でも翻訳出版(写真左)されています。

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